2023年のロイ・リキテンスタイン賞、川越市民文化賞に続き、今年(2026年)、ミュージシャンの灰野敬二氏がヴェネツィア・ビエンナーレ・ムジカの功労金獅子賞を受賞されました。

◆「功労金獅子賞」って、どんな賞?
 ヴェネツィア・ビエンナーレ・ムジカは、ヴェネツィア・ビエンナーレの音楽部門。同ビエンナーレには、音楽以外に、美術や映画などの部門があります。音楽部門は「功労金獅子賞 il Leone d’oro alla carriera」と、「銀獅子賞 il Leone d’argento」の二つの賞を設けています。原文のうち「alla carriera」は、「その活動に対する」という意味だと思われます。
 この賞の歴代の受賞者には、2021年のカイヤ・サーリアホ(フィンランド)、2023年のブライアン・イーノ(イギリス)、2025年のメレディス・モンク(アメリカ)と錚々たる顔ぶれが並んでいます。
 灰野敬二(以下敬称略)は、ジョン・ケージ、ジャスパー・ジョーンズらが創設した財団Foundation for Contemporary Arts(FAC)から2023年にロイ・リキテンスタイン賞を贈られているので(同年に上記の川越市民文化賞も受賞)、3年の間を置いて、再び大きな賞を獲得したことになります。
 ちなみに、ヴェネツィア・ビエンナーレの映画部門で金獅子賞を獲得している日本作品には、1951年の『羅生門』(黒沢明監督)、1958年の『無法松の一生』(稲垣浩監督)、1997年の『HANA-BI』(北野武監督)があります。音楽部門の賞に対し、日本ではこちらのほうが有名です。

◆灰野敬二の音楽活動
 灰野敬二(1952- )がミュージシャンとして本格的に日本の音楽シーンに登場したのは、1971年8月14日から16日まで千葉県成田市三里塚で開催された「’71日本幻野祭 三里塚で祭れ」でししょうか。
この「祭り・集会」には、高柳昌行、阿部薫、頭脳警察など多くのミュージシャンが参加、灰野自身はバンド「ロスト・アラーフ」の一員として出演。
彼らの演奏を収めたアルバム「幻野―幻の野は出現したか」(原盤:創世記レコード/URC GNS-1001~2。CD:SOLID CDSOL-1003)が作られましたが、60分にも及んだ灰野たちの演奏は10分に編集され、あとから「叫喚地獄」というタイトルが付けられたということです1。
 それから50年以上の長きに亘り、灰野は大量消費されるものとは対極にある音楽活動を展開。「即興」を基軸に、多くのミュージシャンとの共演を重ね、海外へも活動範囲を拡げてきました。
 そうしたミュージシャンが功労金獅子賞を授与されたのは、格別な出来事でした。

◆「「音楽が好き」って自分で言い切れる。」
声、ギター、様々な楽器を使う灰野の音楽は、既成の音楽観にとらわれなければ、特に難解なものではありません。しかし、それを言葉で説明しようとすると、困ってしまいます。説明したことによって、あまりにも多くのものが抜け落ちてしまうので(音楽はみんな、そうかもしれませんが…)。灰野の音楽について知りたければ、ライブを体験してみるのが一番です。
CDは、蓮沼執太とのコラボレーション・アルバム「うた」(POCS-23063/W&WC-0003)が、2025年に発売されています。
 そして、演奏ではないのですが、映画「ドキュメント灰野敬二」(白尾一博監督)の2012年の公開時に行われたインタビューが素晴らしく、灰野の人柄がまっすぐに伝わってきます。2026年8月現在、まだインターネット上に掲載されているので、閲覧をお勧めします。
インタビュアーを務めた長澤玲美は川越出身、灰野敬二は川越育ち、映画は川越スカラ座でも公開されました。
インタビューのなかで灰野はこう言っています。
「僕がいつも言ってることはね、「好き?」、「本当に好き?」、「どこまで好き?」、それで何でも出来ると思ってるから。でも、みんなは好きと言いながら、いろんなことをやりながら、結局は本人が気付いてない「音楽も好き」っていう、「も」が僕に言わせれば結局は「も」なんで。僕はそれを「音楽が好き」って自分で言い切れる。」2

1 『ラヴ・ジェネレーション1966-1979:新版 日本ロック&フォーク・アルバム大全』(音楽之友社、2000年)31ページ。文:サミー前田。
2 『ドキュメント灰野敬二』 灰野敬二 インタビュー|HMV&BOOKS onlineニュース(インタビュアー:長澤玲美)(https://www.hmv.co.jp/news/article/12070330071/?  2024年7月21日アクセス)